ユニバーサルデザインという言葉を聞いたことがある人は多いと思います。特に、デザインを仕事としている人には身近な考え方だと思います。
しかし、ユニバーサルデザインの意味をきちんと理解できているでしょうか、またそれを自分のデザインや制作物に活かせているでしょうか。
デザインおいて、アイコンや図などで表現すればそれがユニバーサルデザインであると考える人も居ます。間違いではありませんが、せっかく言葉を知り考えを取り入れようという思いがあるのなら、もっと正確な意味を理解してそれぞれのデザインに活かせれば良いと思います。
ユニバーサルデザインの発祥と7原則
ユニバーサルデザインは、1985年にアメリカのノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald L.Mace)教授が、「年齢や能力にかかわらずすべての生活者に対して適合するデザイン」を基本として提唱された考え方です。
同時に、以下の7原則を作成しました。
ユニバーサルデザインの7原則
- 公平な実用性
- 柔軟性に富む
- 単純で直感的に利用できる
- 分かりやすい情報伝達
- エラーに速やかに対応できる
- 労力が少なくてすむ
- 利用しやすい大きさと空間
この考えの背景には、1981年の国際障害者年に発表された障害者の「完全参加と平等」がありました。
国際障害者年(こくさいしょうがいしゃねん)とは、国際連合が指定した国際年の一つ。1981年を指す。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
この国際障害者年より以前から、アメリカでは障害者の社会参加を促す法律が多く制定されていましたが、実際には車椅子用のスロープが建物の正面ではなく裏口に設置されているなど、いくら法律を制定してもその盲点を突くような事例も多くありました。
このように、法律だけでは規定できないことに対する考えとして、“ノーマライゼーション ” や “ バリアフリーデザイン ” などの考えを取り入れた “ ユニバーサルデザイン ” という概念が誕生しました。
ノーマライゼーションやバリアフリーデザインとの違い
バリアフリーという言葉は聞いたことがあると思います。ノーマライゼーションは聞きなれない言葉でしょうか。この2つの考え方はユニバーサルデザインに似ていますが、少し違います。
ノーマライゼーションとは、障害者や高齢者など社会的な弱者が他の人々と同じように「普通」に生活できるようにすることが社会のあるべき姿だという考え方です。
バリアフリーデザインは、日常生活における障害者に対する支障や不便を強いるバリア(障害)を取り除いた環境を作ろうとする考えです。
これらの考えは、問題の発見と除去という“問題解決型”の考え方です。とても分かりやすいのですが、この考え方からでは障害者用として作られるデザインであり、健常者にとっては無縁のものが出来上がることが多くあります。
このように、健常者用に設計され作られた中に、後から障害者用の物を付けたそうということではなく、初めから多くの人々に適応した設計やデザインにする、という“提案型”の考えがユニバーサルデザインです。
共用品という考え方
初めからより多くの人に適応したデザインを作る、ということは、つまり健常者と障害者のどちらもが使える“共用品”を作ろうということです。
障害者用の製品、いわゆる福祉機器というものは価格が高く、見た目にも健常者用ではないデザインをしている場合が多く、これらがすでにバリアとなってしまいます。
小さな事例ですが、シャンプーとリンスの違いを示すためのボトルのきざみ(突起)をご存知でしょうか。
これは、目の見えない人のためにシャンプーとリンスの違いが分かるように付けられたデザインです。しかし同時に、シャンプーをしているときは目をつぶって見えないという健常者の要望にも応えることができています。
詳しくは花王の公式サイトに書いてあります。
このように、一般商品と福祉用品を近づけ、初めから双方に使いやすいようにデザインして共用品・共用サービスをつくるというのも、ユニバーサルデザインの大きな使命です。
東京オリンピックのチケット予約の時に感じた問題
東京オリンピックのチケット予約が始まったころに、こんなニュースを見ました。
チケットを予約したいけどやり方がわからない。パソコン教室に行って教えてもらいながら挑戦したが、先生に教えてもらう時間内に予約することができなかった。
パソコンやスマホになれない高齢者の方の事例です。
実際の手順としては、メールアドレスで登録をして予約フォームに必要事項を入力するものです。この一連の中にいくつもの障壁があります。
- そもそもパソコンやスマホの使い方がわからない
- 文字の入力の仕方がわからない(キーボード、タッチ画面)
- メールをどうやって見たらいいかわからない
- フォームの入力画面がよく判らない
沢山の障壁があります。これらは高齢者に限ったことではないと思います。会社の中でも、パソコンの得意不得意の差が大きくあったり、使えれば便利なサービスも使い方が判らないということが往々にしてあります。
このようなことは、「今の時代に適応するためちゃんと勉強するべきだ」と考えることもできますが、オリンピックチケットについては、少しかわいそうだと感じました。
誰でも使えるデザイン・サービスのために
先ほどのチケット予約の件など、解決するには大変な道のりだと思いますし、すでに様々な努力がされていると思います。
デバイスがあってOSがあってソフトがあって画面デザインがあって、これらを自然と受け入れるには時代が変わる必要があるのでしょうか。個人の力では難しく、世の中に大きな影響を与えられる企業や組織単位での努力や文化づくりによって少しづつ無くなるものかもしれません。
最近見かけた写真プリントサービスでは、店頭に機械が置いてありますが説明してくれるスタッフが常に近くにいます。私も初めて操作するプリントサービスは結局スタッフに使い方を聞いてしまいました。
UI・UXと言われるようにデザインの使命として使いやすさは当然考えられていると思いますが、デザイナーにできることはまだ多くありそうです。