UXライティング入門 ― 言葉が体験をデザインする

はじめに

アプリやWebサービスを使っていて、「このサービスは使いやすいな」と感じたことはありませんか？
その理由のひとつが「言葉の使い方」にあるかもしれません。

「入力してください」よりも「メールアドレスを入力してください」の方が明確。
「エラーが発生しました」よりも「通信に失敗しました。もう一度お試しください」の方が親切。

こうした“ユーザーに寄り添った言葉選び”を担うのが UXライティング です。
UXライティングは単なる文章作成ではなく、ユーザー体験そのものをデザインする重要な要素です。

本記事では、UXライティングの基本的な役割、事例、そして実務で役立つ実践のポイントを解説していきます。

UXライティングとは？

UXライティングとは、アプリやWebサービスにおける「言葉のデザイン」を指します。

ボタンに書かれた短いテキストや、エラーメッセージ、オンボーディングの説明文、通知など、ユーザーがサービスを利用する際に目にするすべての言葉がUXライティングの対象です。

通常のコピーライティングが「購買意欲を高める」「ブランドイメージを伝える」ことを目的とするのに対し、UXライティングは ユーザーが迷わずスムーズにサービスを利用できるようにする ことが主な目的です。

UXライティングの役割

1. ユーザーの行動をサポートする

適切な言葉は、ユーザーに「次に何をすればよいのか」を直感的に伝えます。
例：

• 「送信」よりも「メッセージを送信」の方が具体的
• 「次へ」よりも「支払い方法を選ぶ」の方が明確

2. 不安を軽減する

システムエラーや操作の失敗は、ユーザーにストレスを与えます。
その際に「エラーコード：500」だけを表示するのではなく、「サーバーに接続できませんでした。時間をおいて再度お試しください」と伝えることで不安を和らげられます。

3. サービスの個性を表現する

言葉のトーンやニュアンスは、サービス全体の雰囲気に直結します。
フレンドリーなサービスなら柔らかい言葉を、金融サービスのように信頼性が重要な場合はフォーマルな言葉を選ぶ必要があります。

4. アクセシビリティを高める

専門用語や曖昧な表現を避け、誰でも理解できる言葉を選ぶことは、アクセシビリティの向上にもつながります。

実際の事例

1. Googleのエラーメッセージ

Googleのサービスでは、エラーが発生したときに「問題が発生しました」とだけ表示するのではなく、「接続できませんでした。ネットワーク設定を確認してください」と具体的に案内する例が多く見られます。

2. Dropboxのオンボーディング

初回利用時に「ファイルを保存して、どこからでもアクセスできます」とシンプルに機能を説明。短くても、ユーザーが「何ができるのか」をすぐ理解できる言葉になっています。

3. メルカリの出品画面

「写真を選択」ではなく「商品の写真を追加」と表現。小さな違いですが、ユーザーは「これは商品に関する操作なのだ」と直感的に理解できます。

実践のポイント

1. ユーザー視点で考える

開発者やデザイナー側の言葉ではなく、ユーザーが普段使う言葉に置き換えることが大切です。
例：「認証に失敗しました」→「パスワードが違います」

2. 簡潔であること

文章は短く、要点を絞ること。長文は読まれにくく、理解されにくいです。

3. 行動を促す具体的な言葉

「次へ」よりも「登録を完了する」のように、ユーザーが行う行動を明確に書きましょう。

4. 一貫性を保つ

同じ機能に対して異なる表現を使うと混乱を招きます。サービス全体で言葉のトーンとスタイルを統一することが重要です。

5. ブランドトーンを意識する

• カジュアルなSNSなら「やってみよう！」
• 金融系アプリなら「確認を完了する」
  このように、言葉はブランドの一部です。

注意点

• 翻訳を意識する
  多言語展開を考える場合、直訳が難しい表現は避ける方が無難です。
• 過度な装飾を避ける
  ユーモラスな表現が逆効果になる場面（特にエラーや金融取引など）もあるので注意が必要です。
• テストを重ねる
  UXライティングは実際にユーザーに使ってもらってこそ効果が分かります。ABテストやインタビューで検証することが大切です。

まとめ

UXライティングは単なる「文章作成」ではなく、ユーザー体験をデザインする重要な仕事です。

• ユーザーの行動をサポートする
• 不安を軽減する
• サービスの個性を伝える
• アクセシビリティを高める

これらを意識することで、ユーザーは迷わず、安心してサービスを使うことができます。

デザイナーやプロダクト担当者にとって、UIデザインと同じくらい「言葉のデザイン」は重要です。
ぜひ次のプロジェクトでは、ボタンやエラーメッセージの一言にもこだわってみてください。

きっと「使いやすさ」と「信頼感」が一段と高まるはずです。